胸部・体幹骨の後遺障害
交通事故による後遺障害の中には、胸部や体幹を形成する骨に障害が残ってしまうことがあります。胸部は生命維持のために重要な臓器(心臓や肺、気管など)が集まっております。その障害は、呼吸や血流に影響があり、日常生活の全般にわたって支障をきたします。また、体幹骨(せき椎、胸骨、肋骨など)は体を支える重要な骨であり、これについても、四肢などとは異なり、姿勢の維持や日常動作のあらゆる場面で無意識に使っているため、障害が残ってしまうと日常生活のあらゆる場面で不便を感じます。また、症状が重篤なものになってしまうことがあります。
※なお、体幹骨の中でもせき椎の一部である尾骨については、その機能が他の体幹骨と異なるため、後遺障害認定においては体幹骨として認められませんので注意してください。
胸部臓器に生じる後遺障害
胸部にある臓器はいずれも重要な臓器ですが、その役割によって、大きく呼吸器(肺や気管など)と循環器(心臓)の2つに分けられます。
臓器の後遺障害はどれも機能低下の症状によって認定されるので、その機能を測る必要がありますが、役割が異なる以上、その測り方も異なってきます。
呼吸器については、動脈内の酸素や炭酸ガスの圧力を測ったり、スパイロメーターという機器を使って、呼吸できている空気の量を測ることで機能を測定します。動脈内に含まれる酸素の圧力の数値が低く、動脈内の炭酸ガスの圧力が通常の範囲を超えて高いか低い場合や、呼吸の空気量が少ない場合には、臓器の機能障害が大きいものとして、重い後遺障害が認定されます。
なお、被害者の方が呼吸困難を感じている程度も考慮されます。目安としては、連続した100mの歩行ができるかや、健康な人と比べての平地や階段の歩行が難しいかどうかです。
また、循環器については、息苦しさで体を動かせなくなっているかどうかをはじめ、心臓に関して必要になった処置などから機能低下を測ることになります。
障害の等級認定の基準
1級2号
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2級2号
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
3級4号
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5級3号
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級5号
胸腹部臓器の機能に障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
9級11号
胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
11級10号
胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
13級11号
胸腹部臓器の機能に障害を残すもの
※除細動器を植え込んだ場合は7級、ペースメーカーを植え込んだ場合は9級に該当し、心臓の弁の取替は、9級または11級となります。
体幹骨に生じる障害
交通事故に遭った際に、体幹骨に生じる後遺障害は、大きく2種類(機能障害と変形障害)に分かれます。
体幹骨に生じる後遺障害の認定基準
6級5号
脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの
8級2号
脊柱に運動障害を残すもの
11級7号
脊柱に変形を残すもの
12級5号
鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの
運動障害について
著しい運動障害とは、頚部と胸腰部が強直(怪我をしていない状態と比べて10%程度以下しか動かなくなった状態)した状態をいいます。
(著しくない)運動障害とは、頚部か胸腰部が怪我をしていない状態と比べて半分以下しか動かなくなってしまった状態をいいます。
ただし、どちらの等級も認定されるためには、症状のみでなく原因であるせき椎の圧迫骨折が、画像上確認できる必要があります。
変形障害について
せき柱の変形については、交通事故に遭ってから、背中が丸くなってしまうという症状が現れます。椎体高(せき柱の骨の一つ一つの高さ)の減少程度や、コブ法(レントゲンの画像から、せき柱のカーブの角度を計測する方法)の数値が一定以上であると、著しい変形や中程度変形の後遺障害が認められる可能性があります。仮にそれに至らずとも、画像上明らかなせき椎圧迫骨折がある、受けた施術の内容から11級が認められることもあります。
※著しくはないものの、中程度の変形障害を残す場合には、8級相当の後遺障害等級が認定される可能性があります。
等級認定のために
胸部や体幹骨の後遺障害は、症状が出ていても、何が原因なのかがわかりにくいことがあります。しかし、症状自体は重いことが多く、適切な処置や病院を選択する必要があります。
一方で、胸部や体幹骨の後遺障害が認められるためには、様々な検査や医師に作成してもらう資料などが必要となります。その作成にあたっては治療を進めながら、適切なタイミングで検査を行い、医師へのお願い、場合によっては書き方の提示などが必要となります。
万一後遺障害が残った場合は、無意識的に多くの場面で用いられる部位であることもあり、不便を感じる、苦痛を感じる場面は多く、人生に大きな影響を残すと言っても過言ではありません。
適切な処置と病院を探して全力で治療に取り組む必要があることはもちろんです。しかし、治療に全力で取り組みながら、万一の後遺障害の場合に備えて、適切な検査や医師とのやり取り、資料の準備などを行うことは、被害者の方にとって大きな負担となります。
胸部や体幹骨の損傷は、後遺障害が残った場合には大きな影響がありますが、影響が大きい分、後遺障害として認められる場合には、認定される等級が重くなることもありますので、しっかりと適正な保険金を受け取ることが重要です。
当事務所では、胸部や体幹骨の後遺障害が考えられる場合に、適正な後遺障害等級認定を得るため、経験豊富な弁護士がその時ごとに必要な対応方針をご提案しながら活動してまいります。
交通事故にあって、呼吸や体の動きに違和感など感じられた場合は、後遺障害になることが考えられますので、お気軽にご相談ください。