個人事業主と交通事故
個人事業主の方が交通事故に遭った場合、保険会社から提示された賠償金額が適正なものか特に注意が必要です。
個人事業主の損害額をどのように算定するかは、保険会社と弁護士で見解が分かれやすく、保険会社から提示される金額は、弁護士からすると低額なことがほとんどだからです。
以下では、個人事業主の方が交通事故に遭った場合について解説します。
1 個人事業主の休業損害
交通事故に遭って仕事を休んだ場合、事故の被害者は、加害者に対して、仕事を休んだことによって減収した収入(休業損害)を請求できます。
会社員等の給与所得者が休業損害を請求する場合、会社に休業損害証明書という書類を作成してもらいます。この書類には、事故の被害者が休業した日数や休業により得られなかった給与額が記載されています。一般に、給与所得者が休業損害証明書を提出すると、保険会社は、休業損害を支払う傾向があります。
しかし、個人事業主の場合、自ら事業を営んでいるため、会社に休業損害証明書を作成してもらうことはできません。そのため、保険会社は、休業の事実や減収が確認できないとして、支払いに応じないことが多くあります。
当事務所で扱った事例には、0円で提示されていた休業損害が約243万円に増額したものがあります。
個人事業主の方は、保険会社の提示額が適正なものか特に注意する必要があるといえます。
2 個人事業主の休業損害の考え方
休業損害を算定するためには、1日あたりの収入額(基礎収入)を計算する必要があります。この基礎収入に休業した日数を乗じたものが休業損害です。
個人事業主の場合、その算定に用いる資料は事故前年の確定申告書になります。
もっとも、確定申告書からどのような情報を読み取って基礎収入を算定するかには様々な考えがあり、保険会社と弁護士で見解が大きく対立しています。
例えば、固定費をどう扱うかという問題があります。
確定申告書に記載された「所得」は、「売上」から「経費」を差し引いたものです。しかし、経費の中には、営業をしているか否かにかかわらず発生するもの(固定費)があります。店舗の家賃が代表例です。このような固定費は、事故によって休業を余儀なくされた場合、無駄に発生した費用ということができます。裁判例には休業損害を算定するうえで固定費を考慮し、申告所得額に固定費を加えたものを所得として算定したものがあります。そして、そのような認定をした裁判例は珍しくありません。
保険会社は固定費を考慮することに否定的ですが、固定費を考慮するか否かで、休業損害の額が100万円単位で変わることもあります。
3 個人事業主の後遺障害逸失利益の考え方
事故で治療をしたにもかかわらず症状が遺ってしまった。そのような場合、残存した後遺症の影響により、将来得られるはずであった所得が減少したとして、後遺障害逸失利益を請求することができます。
後遺障害逸失利益を算定するうえでは、事故前年における事故被害者の所得がいくらかが計算の基礎となります。ここでも確定申告書が算定資料となります。そして、休業損害と同様に、確定申告書を用いてどのように計算をするのかが争いとなります。
後遺障害逸失利益でも、保険会社の提示が適正なものか検証することが不可欠です。
4 まとめ
個人事業主の交通事故では、保険会社から適正な賠償金が提示されていないことがほとんどです。事故に遭われたらまずは弁護士にご相談することをお勧めいたします。
当事務所では、事故直後から賠償金を獲得するまでフルサポートを行っております。どうぞ気軽にご相談ください。