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(5)胃がんの見落とし

【東京高裁平成13年3月28日判決(平12(ネ)6128号)

1 事案の概要

 Vは、平成6年及び平成7年の二回にわたってA病院で人間ドッグを受け、異常所見なしとの通知を受けたが、平成7年の検査から約2カ月後に進行性の胃がんが発見され、治療を行ったものの死亡した。

 Vの遺族であるXらは、A病院の検診担当医であるYが異常所見を見落とした結果、胃がんが進行したとして、A病院の経営母体に対して損害賠償請求を行った。

 

2 裁判所が認定した事実の経過

 ⑴ Vは、平成6年9月6日、A病院において胃のX線検査を含む各種検診、いわゆる人間ドックを受けた(以下「平成6年検診」という)が、胃に異常が認められるという判定はなされなかった。
 また、正常値が0ng/ml~2.5ng/mlとされているCEA[1]の値は、1.3ng/mlと正常値の範囲内であった。


 ⑵ Vは、平成7年10月25日にも、平成6年検診と同様の各種検査を受けた(以下「平成7年検診」という)。
 X線検査の結果、胃に異状は認められなかったものの、CEAの値は33.2ng/mlに上昇しており、A病院はVに対して、CEAの値が上昇していることから内科にて精密検査を受けるようにと健診結果報告書を送付した。


 ⑶ 健診結果報告書を受け取ったVは、平成7年11月11日、B病院を受診し、その後B病院から紹介を受けたC病院を受診した。平成7年12月27日にC病院で受けた内視鏡検査の結果、Vに胃がんが疑われる所見が発見された。


 ⑷ 平成8年1月9日、VはC病院に入院し、胃の全摘手術等の治療を受けたが、平成10年7月2日、胃がんを直接の死因として死亡した。

 

3 本件の争点

 ①A病院の担当医Yは、平成6年検診において撮影されたVの胃部X線検査フィルムを読影した結果、異常所見を疑い、精密検査の指示をすべきであったか。また、平成7年検診において撮影された同フィルムを読影した結果、精密検査の指示をすべきであったか。


 ②平成6年検診又は平成7年検診におけるVの胃部X線検査について、不十分なX線フィルム撮影しか行わず、かつ、再検査等をすべきであったのにこれを怠った過失がY医師に認められるか。

 

4 裁判所の判断

 ⑴ 争点①について
 鑑定の結果、平成6年検診の際のX線検査フィルムは、消化器病を専門とする医師ですら正確に読影して異常所見を指摘することが極めて困難なものであったと認められる。また、平成6年検診の際のCEA値も正常の範囲内であり、他にVの胃がんを疑う所見がなかったことからすれば、Y医師がX線検査フィルムを読影して胃の異常所見を指摘することは、医療水準に照らして著しく困難であったといえ、精密検査の指示を出さなかったことに過失があったとは認められない。


 鑑定の結果、平成7年検診の際のX線検査フィルムは、平成6年検診の際に撮影されたものと同様に、消化器病を専門とする医師ですら正確に読影して異常所見を指摘することが極めて困難なものであったと認められる。平成7年検診の際には、VのCEA値が有意に高くなっていたことを考慮しても、A病院のような通常の医療施設において実施される人間ドックにおける担当医が、このようなフィルムを読影して異常所見があることを指摘することは、医療水準に照らして著しく困難であったといわざるを得ず、Y医師が異常所見を指摘しなかったことについて過失があったとは認められない。


⑵ 争点②について
 鑑定医らの所見をまとめた結果、A病院にて実施されたX線検査の方法及びこれに基づくX線検査フィルムの質については、これが通常医療施設における医療水準に達せず、人間ドックの目的を達成することができないものであったとまでは認められない。したがって、Y医師について、再度のX線検査または内視鏡検査をすべき注意義務が存したということはできないし、その注意義務を怠った過失が存するということもできない。


⑶ 結論
 以上のことから、Y医師やA病院に過失があったとは認められないから、Xらの請求は認められない。

 

5 弁護士としての所見

 本件は、2年続けて人間ドックを受け、いずれも胃に異常所見が認められなかったにもかかわらず、2度目の検診からわずか2カ月後に胃がんが発見され、亡くなった患者の遺族が、病院に対して損害賠償請求を行った事案です。


 東京高等裁判所は、病院側に過失はなかったとして、遺族の請求を認めなかった第1審(東京地方裁判所)の判決を支持し、控訴を退けました。
 本件の最大の争点は、担当医師が異常所見を発見できなかった点に過失があるか否かという点です。


 この点に関し、裁判所は、日本消化器病学会から、同学会所属の医師5名の推薦を受けた上で、各医師に対し、Vの平成6年検診及び平成7年検診における胃部X線検査フィルムと問診結果を提供し、精密検査を指示すべきと考えられるような異常所見が認められるか否かについての鑑定を命じました。すなわち、消化器病を専門とする医師たちが、Y医師と同様の資料を与えられた場合に、精密検査を必要と判断するか否かを確認したのです。


 結果として、平成6年検診については5人中3人が、平成7年検診については5人中4人が異常所見ありと鑑定しました。しかし、異常所見があると鑑定した医師の意見が相互に異なっていること、異常が存在すると指摘した箇所も異なっていること、所見の大部分が最終的な確定診断を下したC病院の診断結果と異なっていること等を理由に、A病院という通常の医療施設において人間ドックを担当するY医師が、異常所見を指摘して精密検査の指示を出さなかったとしても、過失があったとは認められないという判断を下しています。


 上記のような裁判所の判断は、医療水準に照らして過失の有無を判断するという医療過誤事件の原則ともいえる考え方に則ったものですが、医療水準の導き方として専門医5名に鑑定を依頼するというのは、一個人が行うには相当ハードルの高い手段といえます。


 医療事故にあったが、病院に過失があるといえるか分からない、医療水準をどのように考えてよいか分からないとお悩みの方は、ぜひ一度弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

 

[1] 主に腺がんで値が上昇し、がん発見のための補助的診断法として利用される。ただし、早期のうちから高い値を示すとは限らない。

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