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胃がんと誤診され胃の摘出を受けた事案

【福岡高裁令和2年10月8日判決 ※一審:熊本地裁令和2年3月25日判決】

【事案の概要】

Xは、嘔吐や下痢の症状を訴え、D病院を受診した。D病院において内視鏡検査を行ったところ、胃がんの疑いがあったことから、D病院は、胃がんが疑われる部位の検体(以下「本件標本」という)を採取し、病理専門医であるY1に病理診断を依頼した。

 Y1は、検体の病理組織検査を行い、印環細胞がんであるとの病理診断(以下「本件病理診断」という)をした。

 D病院は、本件病理診断を受けて、XをY2病院に紹介した。そして、XはY2病院において、幽門側胃切除術(以下「本件手術」という」)を受け、胃の3分の2を摘出した。

 その後、本件手術において摘出した標本を病理組織検査した結果、がん細胞は存在せず、マクロファージ(白血球の一種)が集まっているのみであったことが判明した。

 X側が、Y1及びY2に対して、必要のない胃の摘出を受けたことに関して、慰謝料や後遺障害逸失利益を求めて提訴した。

  なお、Xは訴訟係属中に亡くなったため、相続人が訴訟を承継した。

【裁判のポイント】

 ①Y1が、マクロファージの集簇(群がり集まること)を印環細胞がんであると診断したことに過失(善管注意義務違反)が認められるか。

 ②Y2が、再度の生検を行わなかったこと又は本件標本を取り寄せて病理組織検査を行わなかったことに過失(善管注意義務違反)が認められるか。

 ③Y1の過失(善管注意義務違反)と結果(胃の摘出)との因果関係

【裁判所結論】

一審は、Yに対する請求を認め、Y2への請求を棄却した。控訴審も一審判決を支持。争点に対する裁判所の判断は次の通り。なお、裁判所は、損害については、後遺障害逸失利益の請求は認めず、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料の請求のみを認めた。

①について

 「胃がん組織生検においては,腫 瘍性(腺腫又はがん)か非腫瘍性か判断の困難な病変はGroup2,腫瘍と判 断される病変のうち,がんが疑われる病変や腫瘍性病変と考えられるが,腺腫か がんか鑑別できない病変はGroup4,がんと診断できるものはGroup5 と分類されており(前提事実(3)),その後の治療方針をみても,Group 2については再検査や経過観察等を,Group4については病変の大きさ等を 確認し,再生検や内視鏡的切除を行って確定診断を試みるものとされる一方,G roup5について種々の画像診断(大きさ・深達度)を参考にして治療法など を考慮するとされており(認定事実(2)オ),病理組織検査はその後の治療方 針に大きな影響を及ぼし得るものであることが認められる。 これらの点に鑑みれば,病理診断医は,がんであると診断できる確実な 根拠をもとにGroup5との診断をすべき注意義務を負うと解するのが相当で ある」

 「 本件標本については,印環細胞がんと矛盾しない形態学的特徴が一定程度認められるとしても,多核細胞が認めら れること等を前提とすれば,印環細胞がんではなくマクロファージの集簇である 可能性を疑うべきであり,被告Y1の指摘する形態学特徴等は,本件標本から認 められる病変をがんと診断する確実な根拠とはいえないものであった。 そうすると,被告Y1は,がんであると診断できる確実な根拠がないにもかかわらず,Group5(印環細胞がん)であるとの本件病理診断をした といわざるを得ないから,被告Y1には注意義務違反が認められる。」

②について

 「異なる医療機関における医療行為は,それぞれの 医療機関に属する医師の判断と責任により行われるものであるが,現在の専門分 化がすすんだ医療においては,後医が前医の医療行為や診断を安易に信頼するこ とは許されないとしても,前医から引き継いだ情報を参考にしながら,適切な医 療行為を決定すること自体は許されると解するのが相当である。」

 「Y2は、前医 (D)から引き継いだ情報を参考にしながら,適切な医療行為を決定すべき注意 義務を負うものと解するのが相当であり,前医の診断と矛盾する所見等が認めら れるにもかかわらず安易に前医の診断等を信頼したような場合には,医師として の注意義務に違反したと評価される場合があるものと解される」

Y2での「診療経過において,印環細胞がんの病理診断と明らかに矛盾する所見等 は認められなかった。 そうすると,B病院(=Y2)の医師において,本件病理診断の結果に疑念を抱 かせるような事情があったとは認められない。」

 「以上によれば,B病院(Y2)の医師において,再度の生検を行い又は本件標 本を取り寄せて病理組織検査をすべき義務があったとは認められない。」

③について

「被告Y1は,本件病理診断において,がんと診断できる確実な根拠がない のに印環細胞がん(Group5)と診断した注意義務違反が認められるとこ ろ,B病院(=Y2)の医師は,本件病理診断の結果に基づいて,亡A(=X)が胃がんであること を前提に治療法を検討し,本件手術を行ったことが認められるから,被告Y1の 前記注意義務違反と,亡A(=X)が本件手術によって胃を亡失したこととの間には相当 因果関係を認めることができる。」

【弁護士としての所感】

 本件は病理専門医の誤診により胃がんと診断され、胃の摘出を受けたという事案です。注意しなくてはならないのは、誤診があったからといって、直ちに医療機関の過失が認められるわけでないということです。診断の根拠や検査の内容が、当時の医療水準に達していないものだった場合に、はじめて医療機関に過失が認めらます。

 本件においては、印環細胞がんとマクロファージの集簇は、形態学的特徴が類似しているものの、一般に病理診断医においても、印環細胞がんとマクロファージの集簇の判断を間違えないように注意すべきとされていること、手術後に病理診断を行った医師2名がマクロファージの集簇であると判断していること、PAS染色が陰性であった等、印環細胞がんであるとの病理診断を行うことについて慎重になるべき事情があったこと等を理由に、印環細胞がんであると診断する確実な根拠がないにもかかわらず、胃がんと診断したことを、病理専門医の過失と判断しました。

 誤診により、必要のない手術を受けたという方は、その誤診に過失が認められるか検討するためにも、一度弁護士にご相談ください。

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