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(3)肺がんの見落とし

【東京地判令和4年12月26日判決(令和3年(ワ)1483号)

1 事案の概要

Y病院呼吸器内科のA医師が、気管支鏡検査を行わなかったために、原告の肺がんが発見されるまで約13ヶ月の遅れが生じ、ステージが進行した結果、術後5年間の生存率が低下したとして、原告が担当医であったA医師とY病院に対して慰謝料請求を行った事案。

   裁判所は、医師の検査不実施について過失を認め、慰謝料及び弁護士費用、カルテ開示費用として222万31円の支払いを命じた

2 判決の内容

⑴ 認定した事実の経過

原告は、健康診断で肺機能低下の疑いが生じたため、平成30年5月19日にY病院呼吸器内科を受診し、その後も受診を継続した。担当医のA医師は、胸部CTによる経過観察を続け、同年10月13日及び平成31年1月19日のCT検査の結果、いずれについても放射線読影医が「気管支鏡でご確認ください」「気管支鏡評価を」と記載し、結節影が15ミリメートル大に増大していると指摘されていたにもかかわらず、術者への感染リスクがあることなどを考慮して、気管支鏡検査を行わなかった。

原告の肺がんは、令和元年7月27日に発見され、A医師とは別の医師による右肺中下葉切除手術が行われた後、放射線治療が行われたが、肺がんが発見されるまでの間、原告は13回に及ぶA医師の診察を受けていた。

⑵ A医師の注意義務について

①平成30年4月24日に撮影された胸部CTにおいて、原告の肺には直径13ミリメートル大の結節影が認められ、原則として確定診断を行うとされる大きさにあった。

②原告のブリンクマン指数[1]は630であり、肺がんのハイリスク群に属していたといえる。

③原告は、平成30年5月19日頃から、息をするときに痰が絡むようなゼイゼイする感覚を覚え、同年6月20日頃には発作的に咳が出るという呼吸器症状が認められていた。A医師も平成30年4月24日の胸部CTの結果、鑑別すべき疾患として肺がんを想定していた。

④喀痰細胞診(痰の中の細胞成分を顕微鏡で見る検査)で診断がつかない場合には、次に気管支鏡検査を行われるものとされているところ、原告は、平成30年6月19日まで、結核の診断のため3日間の喀痰検査を受けたものの、結核菌の確認ができなかったため、結節影について診断がつかない状態にあった。

以上、①~④の事情を考慮すると、喀痰検査で診断がつかなかった以上、A医師には、平成30年6月20日の時点で、結核か肺がんかの確定診断のため、原則として気管支鏡検査を行う義務があったといえる。

 ⑶ 因果関係に対する判断

A医師の過失がなければ、原告はステージⅡの段階で本件肺がんの手術を受けることが可能であったと認められ、肺がん診断された60~69歳の男性がステージⅡで外科的手術を受けた場合の5年生存率が70.4%、ステージⅢで外科的手術を受けた場合の5年生存率は49.7%とされていることから、本件肺がんの発見が約13ヶ月遅れた結果、原告の術後5年生存率は20.7%低下したと認められる。

 ⑷ 損害に対する判断

本件肺がんの見落とし期間やそれに至る経緯、術後5年間の生存率低下が小さいとはいえないこと、平成30年6月20日時点で本件肺がんがすでにステージⅡBに達しており、原告の抱いている死への不安や恐怖は見落としがなくても一定程度生じていたものではあるが、本件不法行為によりその程度が高まったといえること等、本件に現れた一切の事情に照らし、原告の精神的苦痛に対する慰謝料は200万円と評価するのが相当である。

3 弁護士としての所感

本件は、肺がんの疑いがある患者に対して、気管支鏡検査を行わず、肺がんの発見が遅れたことについて担当医及び病院の過失が認められた事案です。

  検査に関して医師の過失が認められるか否かは、

⑴診察時に、対象となる疾患を疑う主訴や症状があったか

⑵⑴が認められることを前提に対象となる検査が必要であるか

という観点から判断されます。特に⑵の検査の必要性の有無の判断においては、疾患別の診療ガイドラインに従ったといえるかという観点から判断され、ガイドラインと異なる判断をとるには合理的理由が必要とされています。

本件においては、相当程度の大きさの結節影が認められたこと、ブリンクマン指数が基準値を超えていたこと、呼吸器症状を発症していたことなどから⑴が認められ、3日間の喀痰検査で結核菌が検出されなかったことから、「肺癌診療ガイドライン」に従い、気管支鏡検査を行う必要があったとして⑵が認められたといえます。

医療事故事案において、必要な検査が行われていなかったという点が争いになることは多くありますが、診療初期の時点においては検査を行う義務の存在が認められなかったとしても、診療が継続する中で義務が生じるということもあり、義務違反の主張及び立証には専門家の法的知識・医療的知識が必要不可欠といえます。がんの診断を受けた際に、必要な検査が行われていなかったのではないかという疑いを感じた場合、まずは弁護士にご相談ください。

 

 

 

[1] 一日に吸うたばこの本数と喫煙年数をかけた数。600を超えると肺がんの高度危険群といわれる。

 

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