1 はじめに
学校内の事故については、明確な定義があるわけではありません。
しかし、一般的には、学校の管理下の元、学校での授業中や部活動中に、もしくは学校の設備によって発生した事故や災害によって、生徒・自動が怪我を負ったり、死亡してしまった場合を言います。
例えば、下記のような場合が、学校内の事故の代表的なものです。
・体育の授業中や部活動中に、バレーボールやサッカーボールが生徒・児童に当たって怪我をしてしまった
・理科や化学の授業で実験を行なっており、薬品が目に入ったり、やガスバーナーの火で火傷をしてしまった
・昼休みに校庭で追いかけっこをしていた時に転倒し、頭をコンクリートにぶつけて怪我をしてしまった
・自転車で通学していたところ、自転車で転倒してしまい怪我を負ってしまった
・学校教師からの体罰を受けたことにより生徒が怪我をした
・同級生からいじめを受け、身体的な怪我をしたり、精神的に疾病を発症した
全国の学校内の事故は、2014〜2016年度のデータでは年間平均で107万件も起きており、決して他人事ではありません。しかも、そのうちの1万2千件以上は命に関わることもある頭の怪我ということです。
では、このような学校内での事故が起こった場合には、誰に何を請求することができるのでしょうか。
2 災害救済給付制度
まずは、学校の休み時間や授業時間など、生徒・児童が学校の管理下で怪我をした場合、日本スポーツ振興センターに申請することで、災害給付金を受け取ることが可能です。この給付金を受け取りに関しては、学校側に責任・過失があるか否かは関係がありません。
通常は、学校側から申請の書類を保護者が受け取り、医療機関に書類を提出した上で証明を受け、証明を受けた用紙を学校側に提出する、という手続きをとることになります。
これで、実際に医療機関に支払った部分の医療費の給付を受けることできますが、その賠償額は、医療費総額5千円以上の怪我や一部の病気に対し、4割分が支払われるというもので、損害の全額を賄うことはできないのが現状のようです。
次に考えられるのが、学校や加害者に対して損害賠償をするという手段です。しかし、そのためにはまず、怪我や病気の原因になった事故の状況について調べることが必要です。
3 事故の状況調査
学校や加害者に対して損害賠償を求めるためには、まず、怪我や病気の原因となった事故の状況を把握する必要があります。
よほどの大きな刑事事件でもない限り、事故の調査は学校、つまり教師が行うことになります。当然ながら、教師はこういった事故の調査について訓練を受けているわけではないので、調査能力には限界がありますが、その中でも真実に近づいてもらうために、家族側でもできることがあります。
まず行うのは、生徒・児童本人の話をしっかり聞くことです。まだ子どもなので、はっきりしないところもあるかと思いますが、できるだけ正確に、時間や場所、怪我の部位、事故があったときにいた人たちの位置関係を、記憶が新しいうちに聞き取っておきましょう。
また、学校であれば、事故の場面に本人以外の第三者、多くは同級生がいた場合が多いと思います。このような周囲にいた人について、可能であれば話を聞き、その内容をまとめておくのが大事です。
そのようにして集めた証言を、出来れば書類にまとめておきましょう。これが、いざ裁判となった時にも有効な証拠となります。
以上のように、調査の方法を説明させていただきましたが、これを実際に行うのは、かなり大変なことです。
そのような場合にも、こういった事故調査に慣れた弁護士の力を借りることで、学校や他の生徒・児童などとのコミュニケーションが図られ、調査も円滑に進めることができます。
4 学校への損害賠償請求
学校が公立であっても私立であっても、教師や学校職員の故意または過失によって学校内で事故が発生した場合には、その教師・学校職員の使用者として、学校が損害賠償責任を負います。
ただし、学校が公立か、私立かによって、どんな法律を根拠に請求をするのかが異なります。
学校が公立の場合には、学校の設置主体である県や市区町村、場合によっては国という、いわゆる地方公共団体や国に対して損害賠償をすることになり、その場合には、国家賠償法という法律を根拠に請求を行うことになります。また、この場合、教師個人に対しての賠償請求を行うことはできません。
学校が私立の場合には、いわゆる民民の関係ですので、学校の設置主体の法人などに対して、使用者責任(民法715条)や債務不履行責任(民法415条)を追及することになります。
請求の根拠の次に問題になるのは、損害額を確定することになります。怪我の治療にかかった費用のほか、慰謝料など、多くの項目が問題になり得るため、実際の損害額の算定は簡単でないと言えます。
どのような場合に、教員の過失が認められるか、また損害額がどのくらいになるのかは、具体的な事情によって異なります。法的な判断が必要ですので、弁護士への相談をおすすめします。
4 加害生徒・児童に対する損害賠償請求
サッカーボールをぶつけられて怪我をした場合のそのボールを蹴った生徒・児童、いじめで怪我や被害を被った場合の加害者など、生徒・児童に加害者がいる事故の場合には、当該加害者に対して、民法709条の不法行為責任に基づいて損害賠償請求をすることが考えられます。
未成年であっても、不法行為を行ったことと、それによる損害を賠償しなければならないということを認識できる能力(事理弁識能力)があるならば、請求自体は可能です。
しかし、事理弁識能力があることと、実際に請求された金額を支払う能力があるということは全く別問題です。
したがって、生徒・児童が加害者の場合には、年齢が幼く事理弁識能力がないか、もしあったとしても、ほとんどの場合本人に金銭賠償を行う能力がないため、請求を行う実効性を欠くことになりますので、実際には、支払い能力がない加害者本人に代わり、加害者の親権者や保護者に対して損害賠償請求を行うことになります。
未成年の加害者に対し、その親権者・保護者は監督義務を負っています。その義務を怠ったことにより、事故が発生したという因果関係を証明出来れば、親権者・保護者に対して、民法714条を根拠に、損害賠償請求が認められます。
5 後遺症の場合
大きな怪我をした場合には、怪我そのものは治癒しても、後遺症が残ってしまう場合があります。交通事故の場合は、自賠責保険が後遺障害等級を認定してくれますが、このような学校内での事故の場合、後遺障害等級を認定してくれる機関はありません。
ですので、本人、実際には本人の親権者・保護者が、本人の診療記録等の医学的資料を使って、どの程度の後遺症が残っているのかを立証する必要があり、場合によっては、事故と後遺症の因果関係自体を証明しなければなりません。このような立証・証明活動は、医学的な知識はもちろん、法的な知識も必須になってきますので、ご自身のみで行うのではなく、専門家である弁護士の力を借りることをお勧めいたします。
6 終わりに
以上説明させていただいたように、学校内で事故が起き、誰かにそれにより発生した損害の賠償を求める場合には、事実の調査能力や医学的・法的な専門知識が必要です。
当事務所は、交通事故の被害者側代理人として培った後遺症立証のノウハウや医学的知識を多く有しており、学校内での事故においてこのような知見を有効に活用して、被害者の方にお怪我に見合った適正な賠償金をお届けできるように全力を尽くしています。
学校内で負傷したという場合は、ぜひ当事務所にご相談ください。