自転車事故と刑事責任
自転車で交通事故を起こし、相手に怪我を負わせてしまった場合、どのような罪に問われるのでしょうか。
道路交通法違反
交通事故を起こした際に、自転車運転者が道路交通法に違反していた場合は、道路交通法違反として刑事罰が科されることがあります。例えば、携帯電話を使用しながら自転車を運転していた場合等です。
自転車の場合、道路交通法の違反については注意しなくてならないことがあります。
それは、自転車には交通反則通告制度の適用が無いということです。交通反則通告制度とは、軽微な道路交通法の違反については、反則金の納付により刑事責任を問われなくなるというものですが、自転車には適用がないのです。そのため、自転車の場合は、軽微な道路交通法の違反であっても、刑事罰が科される可能性もあるのです。罰金が科されることが多いと思いますが、罰金であっても前科がついてしまいます。
従来は、自転車の場合は道路交通法の違反で刑事裁判まで至ることは少なかったようですが、最近は、自転車の事故が増えていることもあり、取り締まりも厳格になり、刑事罰が科されるケースも増えているようです。
したがって、当然ではありますが、自転車運転の際には、道路交通法の遵守を心掛ける必要があります。
ところで、2020年6月には、道路交通法及び道路交通法施行令が改正され、自動車だけでなく自転車のあおり運転(他の車両を妨害する目的で執拗にベルを鳴らす、不必要な急ブレーキをかけるなど)も危険行為として明文で禁止されるようになりました。14歳以上の場合は、3年以内に2回違反すると、安全講習の受講が義務づけられています。あおり運転が悪質な場合は刑事罰も科されます。実際に、埼玉県では自転車であおり運転をした男が逮捕されたとの報道もあります。
過失傷害罪、過失致死罪、重過失致死傷罪
自転車で相手に怪我を負わせたり、死亡させてしまった場合、刑法に規定されている過失傷害罪(刑法209条)、過失致死罪(刑法210条)が適用されます。過失傷害罪は30万円以下の罰金又は科料が科され、過失致死罪は50万円以下の罰金が科されることになります。
また、重大な過失によって、人を死傷させた場合は、重過失致死傷罪(刑法211条後段)が適用されます。重過失致死傷罪は、5年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金が科されることになります。この重大な過失とは「わずかな注意を払うことにより結果の発生を容易に回避しえたのに、これを怠って結果を発生させた場合」をいいます。裁判例では、自転車が赤信号を無視して走行し、横断歩道をわたっていた歩行者を撥ねた等のケースで、重過失致死傷罪が適用されています。
注意すべきなのは、自転車が直接、歩行者に衝突していない場合であっても、自転車運転者に、これらの犯罪が成立することがあるということです。
大阪地裁平成23年11月28日判決では、自転車が、幹線道路を横断するために、停止車両の陰から対向車線に飛び出し、対向車線を走行していた車両が、自転車を避けるために回避行動をとった結果、歩道に乗り上げて歩行者と衝突し、死亡させたという事案で、自転車の運転者に重過失致死罪の成立を認め、禁固2年の実刑判決を言い渡しています(なお、実際の事故態様はもっと複雑です。また、実刑判決になったのは、自転車運転者が執行猶予を付すことができない属性だったためとも考えられます)。
自転車を運転する場合は、目の前の安全だけでなく、自分の運転が他の自動車の動静にどのような影響を及ぼすかということも考え、無茶な運転は避けるようにするべきです。