ロードレースと事故(自転車同士の接触)
ロードバイクに乗られる方が増えています。それに伴い、ロードレースに参加してみようという方も増えているように思います。
ロードレース中に自転車同士で衝突し、負傷したという場合、負傷した被害者は、加害者に治療費や慰謝料等の請求ができるのでしょうか。
ロードレース中の自転車同士の事故が日常生活の中での自転車同士の事故と異なるのは、ロードレースが競技であり、高速で走行する以上、お互いに接触の危険を承諾していたのではないかという点です。
スポーツは、身体運動を伴い、場合によっては身体接触等もある活動であるため、本質的に生命・身体を損傷する危険性をはらんでします。そのため、スポーツ中に事故が発生したとしても、その内在する危険性が顕在化したにすぎないので、その加害行為が社会的に相当な範囲にある場合は、加害者が賠償責任を負わない可能性があるのです。
ロードレース中に自転車同士で接触し、一方が負傷したとしても、加害者の走行の仕方がレースのルールを守り、社会的に相当な態様での走行である場合は、加害者は損害賠償責任を負わない可能性が高いといえます。
一方で、走行にルール違反がある場合については、競技中であっても、加害者が損害賠償責任を負う可能性が高くなります。
ロードレースの事案ではありませんが、デュアスロン競技の自転車同士の接触事故の事案で、加害者の損害賠償責任を認めた裁判例が存在します(横浜地裁 平成10年6月22日判決)。この事案は、加害者が被害者を追い越す際に、追突したというものです。加害者が被害者を相当程度上回る速度で走行し、右側から追い越すというルールがあったにも関わらず、左側から追い越そうとしてこれを断念し、右側から追い越そうとしたものの操作が間に合わず追突したという事案です。また、追い越しの際には声掛けをするというルールがあったものの、加害者はこれも守らなかったという事情もあります。
この事案においては、加害者は「スポーツ競技中に生じた加害行為については、それがそのスポーツのルールに著しく反することなく、かつ通常予測され許容される動作に起因するものであるときは、そのスポーツに参加したもの全員がその危険をあらかじめ受忍し加害行為を承諾しているものと解するのが相当であり、このような場合加害行為は違法性を阻却するというべきである。そして、被告の行為は前記のとおりであり、それは本件競技のルールに著しく反するものではなく、かつ、通常予測され許容される動作に起因するものである。」と主張しました。
これに対し、裁判所は「本件競技は、性別、年齢、技術の程度による区別なく同時に競技するもので、かつ、高速のバイク走行の競技を行うことによる危険性を有するものであり、ルール上も危険走行は失格となることがあるとされていることからすると、本件競技のバイク競技においてはその走行中の安全を図ることが重視されているものと解するのが相当である。そして、前示の被告の走行の態様は、スポーツにおいて通常予測された許容される動作に当たるものとは解されず、かつ、前示の被告の過失の程度は、必ずしも軽微なルール違反ということはできない」として、加害者の損害賠償責任を認めています。
ここで、注意しなければならないのは、ルール違反のみを理由に加害者の責任を認める根拠とはしていないということです。
当該競技会の性質、参加者の属性等も考慮の上で、加害行為が通常予測された許容される動作に当たるかという点も重視されています。
ロードレース中の自転車同士の事故においても、ルール違反の有無だけでなく、当該競技会の性質、参加者の属性等を考慮の上で、加害行為が社会的相当性を逸脱していないかという点が、加害者の賠償責任を認めるうえで重視されると考えられます。
また、自転車事故事案ではありませんが、スポーツ中の事故でルール違反がない場合であっても、加害者に損害賠償責任を認める裁判例も存在します。東京高裁平成30年7月19日判決では、「スポーツ競技中、ルール違反さえなければ常に違法性が阻却されると解することはできず、当該スポーツの性格や事故の生じた具体的状況に即して検討すべき」として、加害者にルール違反がなくても、具体的状況によっては、損害賠償責任が発生することがある旨判示しています。
したがって、ロードレースにおいても、加害者にルール違反がない場合であっても、損害賠償責任が発生する可能性はあるといえます。
ロードレース中の自転車同士の接触事故で負傷したという方は、賠償請求を諦めず、ぜひ一同当事務所にご相談ください。
※なお、ロードレース中の事故については、競技中であるということで、自転車保険が免責になっていることがあります。ロードレースへの参加の際は、一度、ご加入の自転車保険の適用範囲を確認されることをお勧めします。