事案
【事案】
Aさんは男性の依頼者です。妻は、感情の起伏が激しく、不機嫌になる度に「馬鹿が」「アホ」「死ね」等の暴言を日常的に繰り返し、時には暴力まで振るい、家具を破壊していました。給料はすべて妻が管理し、Aさんは小遣いとして毎月一定額を妻から渡されていましたが、妻の機嫌を損ねるとそれすら渡してもらえませんでした。それだけでなく、妻から特定の宗教の信仰や起床時間の指定(極めて早朝)された上、食事の準備を強制され、従わないと怒鳴りつけられ、仕事中も妻(専業主婦)からの電話には必ず出るよう命じられ、顧客との面談で電話に出れない際には何十件もの着信を入れられ携帯の着信履歴が全て妻の名前で埋まるといった状況でした。こうした妻による絶え間ない自分本位の行動に悩まされ、Aさんの精神は激しく消耗していました。
その一方で、妻の側は、子の習い事のコーチに対し、肉体関係を求めるメールを何度も送るなど奔放な行動に終始しており(コーチ側は応じていなかった)、Aさんは精神の限界を迎え、離婚を決意し、別居を計画する段階で当事務所にご相談下さいました。
解決
【解決】
Aさんがもっとも気にされていたのはお子様のことですが、別居先となる実家がお子様の学校から遠いことや、仕事が忙しいため子の監護に避ける時間に限界があることから、担当弁護士と協議の上、単身で別居し、その上で離婚協議を申し入れることにしました。
予想していたとおりではありますが、妻側は、別居後も、婚姻費用(生活費の支払い)を請求するのみで、離婚を完全に拒否しました。離婚調停を申し立てても妻側は、Aさんの姿勢は変わらず、一方的にAさんへの批判を繰り返すのみのため、無駄な時間の浪費を回避すべく、当方から調停の早期不成立を願い出て、訴訟に移行しました。
こうして、本件は訴訟と婚姻費用分担審判が並行して裁判所に係属し、双方が代理人弁護士を就けた上、法律上の争点について激しく争いました。離婚訴訟・婚姻費用分担審判の双方に共通する主要争点は、「婚姻関係破綻の有責性が妻側にあると言えるか否か」でした。というのも、妻側は、自身の暴言や暴行、不貞の事実等、当方側の主張する事実をことごとく否認し、Aさん側の「創作」として事実関係から争ってきたからです。
結論としては、当方の主張・立証が奏功し、裁判所から請求認容(原告側勝訴)の心証が開示された上、当方の主張を前提とした和解の勧試がなされました。判決を得るか、裁判所の和解案に応じるかについてAさんと担当弁護士で協議を行い、住宅ローンに関する財産分与の問題の処理や上訴対応・強制執行の費用的負担や早期解決のメリットを考慮し、裁判所の和解案を受け入れ、第一審にて本件を解決しました。
【弁護士の視点】
モラルハラスメントの事案ではよくあることですが、本件では、加害者側である妻が、被害者側(Aさん)の主張する暴言・暴行の事実を否認し、事実関係から争ってきました。
こうした妻側の方針は調停時の姿勢から既に既に予想がついていたため、訴訟開始当初、当方からの証拠の開示を最小限に抑え、裏付けを見せないまま主張ベースで妻側のモラハラの経過を裁判所に訴えました。見込みどおり、妻側は当方の主張事実のほぼすべてを否認したため、予定どおり、当方が準備していた客観証拠(暴言の録音データと反訳文、破壊された家具の写真、暴行を受けた後に撮影した被害者写真、妻のLINE履歴を撮影した写真等)を後から出すことで、妻側の主張が虚偽であることを証明(法的には「弾劾」といいます。)しました。
これにより、妻側が虚偽主張を行っていることが客観的に明らかとなり、妻側は完全に裁判所の信用を失いました。家庭内の事件では証拠が限定的になるため、供述の信用性が(相対的に)重要となりますが、主張の大半で客観証拠と矛盾することが明らかとなり、妻側の敗訴は確定的な状況になったのです。
本件のポイントは、妻側が①当方保有の客観証拠を知らないこと、②攻撃的性格であることから、訴訟において妻側が当方の主張を全部否認してくることを見越し、まず妻側に好きなように喋らせ、その喋らせた内容を証拠によって弾劾するという戦略を取ったことです。これにより、裁判所の決定的な心証を得ることができました。証拠を最初から提示した場合、相手方はそれを前提としたストーリー(言い訳)を考えて弁解しますが、本件ではそれを許さないことで訴訟の帰趨を確定的なものにしました。